睡眠時無呼吸症候群の合併症

睡眠時無呼吸によるさまざまな弊害

睡眠時無呼吸症候群(閉塞型)では、いろいろな重大な心血管系の問題を引き起こし、これらが命に関わることすらあります。

無呼吸がたびたび発生し、低酸素血症(血液中の酸素が少ない状態が続くこと)を引き起こすことはもちろん重大で危険な要因ですが、そのほかに糖尿病や脂質異常症(コレステロールや中性脂肪などが高い)などの生活習慣病を持病としてかかえている方が多く、睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは心血管系に対するさまざまなリスクが重なるといえます。

睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病と共通した危険因子の存在があり、病態生理学的には生活習慣病で観察される心血管系疾患発症のさまざまな危険因子と共通なことからも、”生活習慣病そのもの”との認識をとるべきとの考えもあります。

海外の報告では、AI(無呼吸指数:1時間あたりの無呼吸の回数)>20の患者は、AI≦20の患者に比べ予後は悪く、特に30~49歳の場合死亡率は3.3倍にもなる、とされています。

突然死

睡眠時無呼吸症候群と深い関係のある習慣性いびきと突然死との関連について調べたフィンランドの研究があります。460例の突然死について調べたところ、「常時~ほぼ常時」いびきをかく人が85人、「よく」いびきをかく人が88人であり、突然死全体の37.6%がいびきをかく人でした。
さらに、心臓・血管系の問題で突然死した人は186人(40.4%)でしたが、内訳をみるといびきをかく人の方が統計学的に有意に多かった、とのことです。

他に海外の研究ですが、睡眠時無呼吸症候群の患者34名を4年間追跡調査したところ5名(15%)が死亡しており、その原因の内訳は心筋梗塞が3名、肺水腫が2名と予期せぬ突然な死亡であったということです。

日本では2000年に厚生労働省呼吸不全調査研究班が発表した集計があり、それによると294名の睡眠時無呼吸症候群の患者に対して約5年間追跡調査したところ、17名(5.8%)が死亡しており、その内訳うち8名は心筋梗塞や脳梗塞による突然死が原因でした。また、そ死亡した方の多くが起床後数時間以内に死亡したと報告されています。

高血圧

睡眠時無呼吸症候群と高血圧の合併が多いことは有名です。

高血圧を ”収縮期血圧(上の血圧)≧140mmHg かつ/または 拡張期血圧(下の血圧)≧90mmHg” と定義すると、睡眠時無呼吸症候群患者のうち約68%もの方に高血圧の合併が観察されたとの報告があります。

また、高血圧を合併する頻度は睡眠時無呼吸症候群が重症であればあるほど多いということが分かっています。アメリカの高血圧合同委員会では、睡眠時無呼吸症候群を有する患者を軽度(1時間あたりの低・無呼吸回数:AHI<15)と重度(AHI≧20)に分けて比べた時、重度の群の方が軽度の軍よりも1.4倍高血圧の合併が多いということを報告しています。

さらに、最近では睡眠時無呼吸症候群による睡眠時の低酸素血症は、動脈硬化のリスクの1つである可能性も考えられています。

虚血性心疾患

虚血性心疾患とは、主に動脈硬化が原因で心臓の血管が細くなり起こる病気のことで、心筋梗塞や狭心症などが含まれます。

睡眠時無呼吸症候群と虚血性心疾患との関連は深いことが知られています。、健常者と比べ睡眠時無呼吸のある方は虚血性心疾患の発症リスクは1.2~6.9倍との報告があります。

狭心症患者の40%弱に睡眠時無呼吸症候群を認め、また、睡眠時無呼吸症候群の患者に虚血性心疾患が合併する頻度は35~40%とされています。

原因の詳細はまだ不明な部分が多いですが、睡眠中頻回の覚醒や低酸素状態が起きることによる交感神経系の活動増強が原因の一つとして考えられています。

CPAP(シーパップ)という睡眠時無呼吸症候群の治療機器を使用することにより虚血性心疾患が改善した、という報告もあります。

不整脈

睡眠時無呼吸のある方は、無呼吸時の徐脈(脈が遅くなること)と、無呼吸に引き続く過呼吸時の頻脈(脈が速くなること)をくり返します。

海外で行われた400例の睡眠時無呼吸症候群患者の調査では、洞停止(いわゆる心停止)が11%、心室頻拍(死に至る重篤な不整脈の一つ)が3%に認められたとのことです。

脳血管障害

脳血管障害または一過性脳虚血発作で入院した患者と健常者を比較すると、AHI≧10(つまり1時間あたり10回以上低呼吸・無呼吸がある)であった割合が62.5%と12.5%と明らかに脳血管障害の患者の方が多かったという報告があります。

しかしながら、現時点では睡眠時無呼吸症候群と脳血管障害の直接的な原因についてはまだ不明な点が多いです。

糖尿病

睡眠時無呼吸症候群に糖尿病が合併するのは約10%、糖尿病の手前である糖代謝異常は約15%とされおり、睡眠時無呼吸症候群が重症化するとその合併率は増えます。

これは、もともと睡眠時無呼吸症候群の方に肥満が多く、そのような方ではインスリン抵抗性が上がっておりそもそも糖尿病にかかりやすい、ということも関与していると思われます。

多血症

多血症とは、あまり聞き慣れない病名ですが、血液中の赤血球という、全身に酸素を運ぶ成分が以上に増えてしまう疾患です。赤血球が減ると貧血になりますが、増えるのが多血症です。貧血の反対なのでいいことなのでは?と思いがちでですが、赤血球が増えすぎると血液が濃くドロドロになって流れが悪くなります。そうして、特に血栓症の患者では血栓(血の塊)ができやすくなり心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。

睡眠時無呼吸症候群における多血症の原因は2つあります。

1つは、無呼吸によって結果的にANPという利尿ホルモン(おしっこをたくさん出させるホルモン)が多く分泌されることになり、夜間尿が増えたり脱水になり血液が濃くなってしまうことによるものです。

2つめの原因は、無呼吸によってくり返す低酸素状態が続くことによるものです。低酸素状態になると、エリスロポエチンというホルモンが増え、結果的に赤血球が増え、多血症になるのです。

睡眠時無呼吸症候群と多血症との関連性は高く、原因不明の多血症患者の中に高率に睡眠時無呼吸症候群を認めた、という報告があり、CPAP(シーパップ)という機器を使用し治療を行うことにより改善できます。

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